『顔文字症候群』ショートショート小説 (哲学系)『顔文字症候群(かおもじしょうこうぐん)』 (1834字) 由希子(ゆきこ)が転校した高校は現在、ある症状が猛威を振るっていた。 顔文字症候群。 電子メールによる顔文字の多用が原因で、口頭での会話にも顔文字が現れてしまうというものだ。 女子高生の楽しげな会話に、この症状が顕著に現れている。 「明日からテストらしいよ アットマーク、ドット、アットマーク、ブイ(@.@v)」 「普通に期末でしょ 米印、小なり、ブイ、大なり(*>v<)」 「ジュースおごるからノート写させて プラス、オー、プラス(+o+)」 転校初日、由希子はポカンとした後、症状の深刻さに恐怖した。 全員なのだ。 ホームルームで由希子を紹介する教師までが、 「みなさん、仲良くして下さいね シルコンフレックス、アンダー、シルコンフレックス(^_^)」 などと言った。 クラス全員の自己紹介を聞き終える頃には、めまいを起こしそうだった。 この症状はニュースで見たことがある。でもまさか、こんな身近で起こりうるとは微塵も思わなかったのだ。 重要な連絡手段である携帯端末のメール機能だが、文字だけでは気持ちが伝わりにくいのが難点だ。 含んだつもりの無いものを相手が読み取り、含めたつもりの内容が伝わらない。 メール文によるトラブルが相次いでいた。 そのため、各端末グループは総力を挙げて、気持ちの伝わる絵文字やデコレーション作成に努めた。 ちょっとした会話に用いるものから、真剣な相談ごとに相応しいもの。ビジネス文章に使えるようなシックなものまで登場した。様々な表現を加えられるようになり、メールによるトラブルは少なくなったのだ。 しかし、大量のデコレーションにより、メールの容量が莫大になっていた。 一難去ってまた一難。 電波の混線、メールの送受信に時間がかかるなどの問題が生じた。 次なる手段は『文字のみメール』の無料化だった。 必要以上のデコレーションを避け、文字だけでも伝わる内容は「早く安く」が狙いだ。気持ちは伝えたいが、早さと安さは魅力だ。 しかし、文字のみではトラブルになってしまう。 そこで抜擢されたのが『顔文字』だった。 かな文字と容量の変わらない記号を用いる顔文字は、若者たちの感性により作り出され、周囲へ広まっていった。気持ちの伝わる文章が早く届き、そのうえ安い。 メールを巡る社会現象は、落ち着きを得たかに見えた。 厚化粧のような、こてこてデコレーションが遠い思い出となる頃。 突如として発見されたのが顔文字症候群だ。 不可思議な会話をする女子高生がいるとワイドショーに取り上げられ、メールを巡る社会現象が掘り起こされた。 この症状はいつ頃から現れ始めたのか、詳しいことはわかっていない。世間に知られたのは突然のことだったが、患っている本人たちは自然と使っていたのだ。 この症状は全国に散らばるものの、学校単位の小さな範囲内で流行していた。その区域が今、徐々に拡大しつつある。 顔文字症候群の研究者たちは、イントネーションや表情などから読み取られていた本意が、価値観の相違を浮き彫りにしていたと言う。 伝わるつもり、伝えているつもりを文字から読み取るには、思考価値観が大きく作用する。 『相手は自分と同じ普通の人』などという幻想が崩れ、十人十色を前提とした解決法が『顔文字』であったのだと。これが表情の伝わる会話で現れたとしても、不思議ではないとの見解だ。 ある哲学者は、この思想は差別根絶にも繋がると言う。しかしながら、顔文字症候群という社会現象は一種のガラパゴス現象であり、内輪ルールでしかない。 十人十色という非差別社会が、外の者たちからは不穏な目で見られている。あの症状は恐ろしい、口を利いてはならないと。 「鯛焼き食べたい ハイフン、アンダー、ハイフン、セミコロン(-_-;)」 「ダイエッター1日で卒業ですか ティー、アンダー、ティー、イコール、三 (T_T)=3」 由希子も、メールは便利に使っている。 記号も大体は理解している。聞いていればイメージが出来た。 「前の学校では、まだあまり使われていなかった」 と、いう理由付けがクラスメートに受け入れられ、ゆっくりからの使用に周りも協力的だった。 今では初日の恐怖も忘れ、由希子も重度の顔文字症候群を患っている。 了 \(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/<(`^´)>\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/\(^o^)/ フィクションです(笑)。 決してメール風刺などではなく、今ではギャグの領域ですね。 お里ルール・内輪ルール。十人十色への道がガラパゴス現象に。 小難しい話をギャグで哲学してみました(笑)。 私は顔文字、大好きです。 記号を言われて顔文字を予想するゲームとかやりたいです♪♪ |